IFTTT, Zapier, Makeを活用した情報収集の自動フィルタリングとルーティング
情報過多の時代における課題
インターネットの普及、特にSNSや多様な情報発信チャネルの台頭により、私たちはかつてないほど大量の情報に囲まれています。技術の進化を追うITエンジニアにとって、最新技術やトレンド、ライブラリの更新情報などを継続的にキャッチアップすることは不可欠です。しかし、そのために多くの情報源(技術ブログ、ニュースサイト、GitHubリポジトリ、メーリングリスト、Slack/Teamsチャンネル、SNSなど)をフォローしていると、情報量が加速度的に増大し、処理しきれなくなる状況に陥りがちです。
このような情報過多は、集中力の低下、重要な情報の見落とし、そして「情報収集疲れ」を引き起こし、結果として生産性を低下させる要因となります。受け身で流れ込んでくる大量の情報全てに目を通そうとすることは、時間的にも精神的にも大きな負担となります。
必要情報へのアクセスを自動化する概念
情報過多への効果的な対策の一つに、「必要な情報だけを、必要な形で、適切な場所に自動的に届ける」仕組みを構築することが挙げられます。これは、情報収集における「フィルタリング」と「ルーティング」のプロセスを自動化するという考え方です。
- フィルタリング: 無関係な情報(ノイズ)を除去し、関心のある情報だけを選別することです。特定のキーワードを含む記事、特定の差出人からのメール、特定のタグが付与された情報など、条件に基づいて情報を絞り込みます。
- ルーティング: フィルタリングされた情報を、目的に応じた適切な場所(例:特定のノートアプリ、プロジェクト管理ツール、チャットチャンネル、メールフォルダなど)へ自動的に転送することです。これにより、後から情報を見つけやすくしたり、チーム内で共有したりする手間を省けます。
これらのプロセスを手動で行うには限界がありますが、自動化ツールを活用することで、効率的かつ継続的に実行することが可能になります。
自動化ツールが情報収集をどのように変えるか
近年、様々なサービス間を連携させ、特定のトリガーに基づいてあらかじめ設定したアクションを自動で実行するツールが登場しています。代表的なものに、IFTTT (If This Then That)、Zapier、Make (旧 Integromat) などがあります。これらのツールは、プログラミングの知識がなくても比較的容易に「自動化レシピ」や「ワークフロー」を作成できるインターフェースを提供しています。
これらのツールを活用することで、以下のようなメリットが得られます。
- 効率化: 手動での情報収集・整理にかかる時間を大幅に削減できます。
- 継続性: 設定したルールに基づき、24時間365日自動で情報を処理し続けます。
- 見落とし防止: 人間が行う場合に発生しがちな、重要な情報の見落としを防ぎます。
- 集中力向上: 絶えず新しい情報が入ってくることによる気が散る機会を減らし、目の前のタスクに集中しやすくなります。
特にITエンジニアの皆様にとって、これらのツールは、API連携や条件分岐、さらには正規表現を用いた高度なフィルタリング設定など、自身の技術的な知識を活かしてより複雑で精緻な自動化ワークフローを構築できる可能性を秘めています。
主要な自動化ツールの紹介
情報収集の自動化に活用できる代表的なツールをいくつかご紹介します。
- IFTTT:
- 「If This Then That(もしこれが起きたらあれを実行する)」という名の通り、シンプルなトリガーとアクションの組み合わせで自動化を行います。
- 多くのWebサービスやIoTデバイスに対応しており、個人利用向けの直感的なインターフェースが特徴です。
- 比較的簡単な自動化に適しています。
- Zapier:
- 「Zap」と呼ばれるワークフローを作成します。トリガーと1つ以上のアクションを組み合わせることが可能です。
- 対応しているWebサービスの数が非常に多く、ビジネス用途での連携に強みがあります。
- 条件分岐や複数ステップのアクション設定など、IFTTTよりも複雑なワークフロー構築が可能です。
- Make (旧 Integromat):
- シナリオと呼ばれるワークフローを、モジュールを連結していく視覚的なインターフェースで構築します。
- Zapier以上に複雑なロジックやデータ変換を柔軟に設定できる点が特徴です。
- API連携の詳細な設定や、HTTPリクエストを直接送信するなど、より技術的なカスタマイズが可能です。
どのツールを選択するかは、実現したい自動化の内容、利用しているサービス、予算、そして設定に対する技術的な習熟度によって異なります。まずは無料プランから試してみるのが良いでしょう。
情報収集を自動化する具体的なレシピ例
これらのツールを使って、情報収集のフィルタリングとルーティングを自動化する具体的なレシピ(ワークフロー)の例をいくつかご紹介します。
例1: 特定キーワードを含む技術ブログ記事をノートアプリに自動保存
- 目的: 関心のある技術分野(例: Kubernetes, Serverless, Rustなど)に関する最新情報を効率的に収集し、後から参照できるように整理する。
- ツール: Zapier または Make
- ワークフローの概要:
- トリガー: RSSフィードに新しい記事が追加される(例: 特定の技術ブログのRSSフィード、QiitaやZennのタグ別RSSなど)。
- フィルタリング: 記事タイトルや本文に特定のキーワード(例: "Kubernetes", "Scaling", "Observability")が含まれているかを判定するフィルターを設定します。Zapierの場合は「Filter」ステップ、Makeの場合は「Filter」モジュールを使用します。正規表現を用いてより柔軟なキーワードマッチングを行うことも可能です。
- アクション: フィルタリングを通過した記事のタイトル、URL、要約などを、指定したノートアプリ(例: Evernote, Notion, OneNote)の特定のノートブックやデータベースに自動的に保存します。
例2: GitHubの特定リポジトリに関する重要な通知をSlackに転送
- 目的: チームでウォッチしているOSSライブラリの重要な更新やセキュリティ脆弱性に関するIssueなどを迅速にキャッチアップする。
- ツール: Zapier または Make
- ワークフローの概要:
- トリガー: GitHubの特定リポジトリで新しいIssueやPull Requestが作成される、あるいは特定のイベント(例: Releaseが公開される)が発生する。
- フィルタリング: イベントの種類、IssueやPRのタイトル/ラベルに特定のキーワード(例: "security", "urgent", "breaking change")が含まれる、あるいは特定のユーザーによって作成された、といった条件でフィルタリングします。
- アクション: フィルタリングを通過した通知を、チームのSlackチャンネルやDirect Messageに転送します。Issue/PRのタイトル、URL、簡単な説明などをメッセージに含めることで、概要を把握しやすくします。
例3: 特定の差出人からのメールを特定のフォルダに自動分類
- 目的: 重要なプロジェクト関連のメールや特定のベンダーからの連絡など、見落としたくないメールを確実に把握し、Inboxのノイズを減らす。
- ツール: IFTTT, Zapier, または Make (利用しているメールサービスに対応しているかによる)
- ワークフローの概要:
- トリガー: 特定のメールアドレス(例:
important-client@example.com
,security-alerts@vendor.com
)から新しいメールを受信する。 - フィルタリング: 必要であれば、件名や本文に特定のキーワードが含まれているかなどの条件を追加します。
- アクション: そのメールを、メールサービス内の特定のフォルダに自動的に移動させます。さらに、SlackやMicrosoft Teamsに通知を送る、といった連携も可能です。
- トリガー: 特定のメールアドレス(例:
これらの例は基本的なものですが、複数のツールやサービスを組み合わせることで、より複雑で高度な情報収集・整理ワークフローを構築することが可能です。例えば、受信した技術記事の要約をOpenAIなどのAIサービスに生成させ、その要約と元の記事へのリンクをまとめてNotionに保存する、といった自動化も技術的には実現可能です。
レシピ構築における技術的ポイント
自動化ツールを活用する際、特にZapierやMakeのような柔軟性の高いツールでは、いくつかの技術的な概念が役立ちます。
- API連携: ほとんどの自動化ツールは、各Webサービスが提供するAPIを通じてデータの送受信を行います。APIドキュメントを参照することで、どのようなトリガーやアクションが可能か、どのようなデータを取得・送信できるかを深く理解できます。
- Webhook: 特定のイベント発生時に、サービス側から自動化ツールに対してHTTPリクエストを送信する仕組みです。ポーリング(定期的な確認)よりもリアルタイム性が高く、多くのサービスの「新規アイテム発生」といったトリガーで内部的に利用されています。
- 条件分岐とルーター: Makeなどでは、一つのトリガーから複数の異なるアクションに分岐させる「ルーター」モジュールや、特定の条件が満たされた場合のみ次のステップに進む「条件分岐」を設定できます。これにより、「このキーワードの場合はAの場所に、別のキーワードの場合はBの場所に送る」といった複雑なルーティングが可能です。
- データ変換とフォーマッター: 受信したデータの形式を変換したり、特定の情報を抽出したりするための機能です。例えば、日付形式の変更、テキストの置換、正規表現によるパターンマッチングと情報抽出などが行えます。Zapierの「Formatter」やMakeの各モジュールの設定で利用できます。
- エラーハンドリングと監視: 自動化ワークフローが失敗した場合の通知設定や、実行ログの確認は重要です。特に重要な情報収集を自動化している場合、エラーが発生した際に迅速に検知し、対応できる仕組みを整えておくべきです。
これらの機能を活用することで、単なる情報の転送だけでなく、情報の加工や、より細やかな条件に基づいた高度なフィルタリング・ルーティングを実現できます。
実践上の注意点と習慣化へのヒント
情報収集の自動化は非常に強力ですが、効果を最大化し、継続するためにはいくつかの注意点があります。
- 目的を明確にする: 何のためにその情報を収集・整理したいのか、最終的にその情報をどう活用したいのかを明確にすることが重要です。目的が曖昧だと、不要な情報まで自動化してしまい、かえって管理が煩雑になる可能性があります。
- 小さく始める: 最初から複雑なワークフローを構築しようとせず、一つの簡単なレシピから試してみることをお勧めします。成功体験を積み重ねながら、徐々に複雑な自動化に挑戦していくのが現実的です。
- 定期的な見直し: 設定したレシピが本当に機能しているか、収集している情報がまだ必要か、新しい情報源やツール連携の可能性はないかなど、定期的に見直しを行うことが重要です。情報環境や自身の関心は変化するため、自動化設定もそれに合わせて最適化する必要があります。
- 完璧を目指さない: 全ての情報収集・整理を自動化することは難しい場合があります。重要な情報は自動化しつつも、特定の情報は手動で確認する、といったバランスも必要です。
- 過信しない: 自動化ツールは便利ですが、サービスの仕様変更やAPIの変更などにより、予期せず動作しなくなる可能性もゼロではありません。特にクリティカルな情報については、自動化に頼りきりにならず、バックアップとなる確認手段も考慮に入れると良いでしょう。
これらの点を意識しながら、自身の情報環境に合った自動化ワークフローを構築していくことが、情報過多による疲労を軽減し、より価値のある情報に集中するための鍵となります。
まとめ
情報過多は、現代のビジネスパーソン、特にITエンジニアにとって避けられない課題の一つです。しかし、IFTTT, Zapier, Makeといった自動化ツールを戦略的に活用することで、膨大な情報の流れの中から本当に必要なものだけを抽出し、効率的に管理・活用する仕組みを構築することが可能です。
情報収集の「フィルタリング」と「ルーティング」を自動化することで、手作業による負担を減らし、重要な情報の見落としを防ぎ、そして何よりも、情報に振り回されるのではなく、情報を使って自身の業務や学習に集中できる環境を作り出すことができます。
この記事でご紹介したレシピ例や技術的なポイントが、読者の皆様が自身の情報環境を見直し、より快適で生産的なデジタルライフを送るための一助となれば幸いです。ぜひ、小さな一歩から、情報収集の自動化に挑戦してみてください。